[Advent Calendar 2017]パズルキューブのための正規化復元時間(NST)の提案

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本記事はSpeedcubing Advent Calendar 2017の6日目(12/6)の記事となります。以下、日本語で記載させていただきますが、同内容は英語でも公表していますのでご参考にしてください。

1.   背景

過去、北京くるくる会において400人以上の老若男女に対して、ルービックキューブ(R)を含むパズルキューブの六面完成講座を開催してきた。マニュアルを見ながらとはいえ六面完成することができるようになった初心者からは「今後も続ける」「タイムを競いたい」「公式大会に出てみたい」といった前向きなコメントがある一方で、その後パズルキューブを継続している人は少ない。この現象を私は「初心者の失望の谷(beginner’s discouraging valley)」と名づけた。聞き取り調査の結果、初心者の多くは「上級者とのギャップ」に失望の谷を見出し、そこで継続することをやめてしまう。

この「初心者の失望の谷」を少しでも克服する手法を以下に提案する。

2.   仮定

他のスポーツやゲームには「初心者の失望の谷」はあるのだろうか? 初心者から上級者までが多く存在するゴルフ、マラソン、チェスはどうやって「初心者の失望の谷」を克服しているのであろうか?

仮定は以下の通りである。ゴルフはハンデキャップが存在する。マラソンの市民大会では世代別に順位がでる。チェスはグレード別の大会になっている。一方で、パズルキューブの大会は初心者から上級者までの唯一無二の指標は「タイム」である(注)。即ち、パズルキューブの大会では初心者から上級者までが同じ土俵で競わなければならず、それが初心者にとって心理的負担(初心者の失望の谷)となっていると考えられる。

この心理的負担を少しでも和らげるために以下のNST(Normalized Solving Time)を提案する。

(注)「2016年目黒キューブフェスト」のように年齢別大会が開催されたことがあるが一般的ではない。

3.   正規化復元時間(NST, Normalized Solving Time)

初めに断っておくが、NSTは公式大会での使用には向いていない。NSTはあくまでも初心者が多く参加するパズルサークルや定例計測会での使用に向いている。

NSTは以下のとおり定義される。

[Actual Time] 実計測時間
[experience] 経験を示す指標(キューブを始めてからの月数、大会出場回数等)
日付未入力 年齢
[help] ソルブ中のサポート(マニュアルや指導)
NST係数C1: 経験を示す指標を正規化するための係数
NST係数C2: スピードキューブに最適な年齢を示す項(例:20歳)
NST係数C3: サポートごとのペナルティーを示す項

 

4. NSTの適用

北京くるくる会における計測会において、NST係数をC1 = 5, C2 = 20, and C3 = 30としてNSTを算出した。

Table1: Example of NST

NSTを導入することにより、初心者でも中上級者と「タイム」を競えることとなる一方で、中上級者も初心者相手だからと言って手を抜く必要はなくなる。年齢や経験等の客観的指標により算出されるタイムであるため公平性もある程度確保されている(運否天賦に委ねることはない)。また「マニュアルを見てもよい」ということがNSTの算出式に暗示されているため、初心者もマニュアルをチラ見することに引け目を感じず計測会に参加し競技の面白さを体験することが出来る。北京くるくる会においても何度かNSTを試行したが、経験の有無にかかわらず競技に参加することができ大いに盛り上がった。

5. NST係数の検討

NST係数は、その目的に応じて最適化されなければならない。

  • 全くの初心者或いは年齢要因を下げたい場合はC1を大きくする
  • その会場にいる最も速いキューバーの年齢をC2とする
  • 全くの初心者のやる気をそがない為にもC3は小さい方が良い

6. 結言

以上が「初心者の失望の谷」を克服するためのNSTの提案である。検討が足りない部分が散見される一方で、新たな指標によりパズルキューブ界の将来の発展が見込めるのであれば検討を進める価値はあると思量する。

<Speedcubing Advent Calendar 2017>https://adventar.org/calendars/2244
<Speedcubing Advent Calendar 2016、アフリカとキューブ>http://kurukurukai.com/?p=980

コメント

  1. […] この辺の偶然性などの要素をとりいれるべく、3年前にくるくる会でNST(Normalized Solving Time)を導入した。NSTの詳細については2017年のSpeedcubing Advent Calendar 2017に掲載している。 […]

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